剣山スーパー林道とは、日本一の距離を誇る全長87.7kmの林道。徳島県上勝町~那賀町にかけて剣山国定公園の中を走り抜ける、自然と冒険感たっぷりの秘境スポットです。
今回は西から東へ向かうルートの走破を目指し、愛車クロスカブとともにやって来ました。
この日のスケジュールは、剣山スーパー林道を走破してそのまま徳島市へと抜け、夕方出航の船に乗って和歌山県へ向かうというもの。
船までの時間はギリギリ。果たして走破はできるのでしょうか…!?
日本最長の林道にやってきた!
案内図の前に立った時、心の中には「うわぁ、ついに来てしまったか…」という恐れと不安がありました。
以前知人から「剣山スーパー林道はフラットダートだから、初心者でも走りやすい」なんて聞いたことがありました。しかし、問題は87.7kmという距離です。万が一途中でリタイアしたくなっても、引き返すのは容易じゃありません。
時々林道を散歩する程度のダートビギナーな私にとって、楽しみよりも不安の方が大きくなったのは当然のことだったのかもしれません。
走り始めてしばらくは舗装路が続き、「路面状況悪し」の看板を過ぎればダート区間がスタートします。がんばって走り抜けましょう!
走り始めて5分。早くも「思ってたよりキツイな…」と焦りを感じ始めました。
道は遠目に見ると、聞いていた通りにフラットで安定した雰囲気です。
しかしひとつずつの要素を見ていくと、まったくの初心者向けとは言えません。
剣山(標高1995m!)へと続く上り坂とカーブ、雨水が流れてできた深さ10cm以上の溝、踏み固められていない柔らかな砂利、ガードレールのない崖。どれも林道であれば当たり前の要素なのですが、「フラット」という響きから想像するよりも数段は激しいのです。
また林道内には、定期的に現在位置を示す看板が立てられています。
▲今回は西から東へ向かうルートで進んだので、スタート時の表示はMAXの62kmでした。ちなみに62kmとは、剣山スーパー林道の中でも『西コース』と呼ばれる区間の総距離のこと。
自分の位置を客観的に把握できる点においては有難いのですが、残りの距離から「あと何時間かかるんだ?」と想像すると、心が折れてしまいそうな予感がありました。
距離は目安にしつつも、時間のことはあまり考え過ぎないようマイペースに進むことにしたのでした。
大迫力の洗い越しに出会う
走るうちに周囲はどんどん山深くなり、スマホも圏外になりました。心細さはありましたが、走り始めて1時間を過ぎるころには状況を楽しむ余裕が出てきました。
中でも興奮したのは、洗い越し。
洗い越しとは、川が道の上を流れる状態になっている箇所のこと。バシャッとしぶきを上げながら通り過ぎると、なんだかテクニカルな気分になります。
ただし右側は崖、左側は池という条件のため、万が一落ちたら自力のリカバリーは困難です。無理のない範囲で格好つけて走るにとどめました。
洗い越しだけでなく、剣山の豊富な水源はいたるところにありました。滝のすぐ隣を走った時は「ドドドドドドッ!」という大迫力の音とともに、虹ができそうなほど細かい飛沫が飛んでいるのが見えます。
▲見えにくいですが、ガードレールの向こう側に大きな滝があるのです。
「路面状況悪し」看板との再会もありました。既に15km以上を走っているため、ここまで来たドライバーであれば、誰しも路面が悪いことは承知しているような気もしますが…。
私にとって剣山スーパー林道は、スピードを出して走れる道ではありません。のんびりトコトコ、マイペースに走るのがやっとです。しかし、ゆっくり走るからこそ見える景色もあります。
大自然の中をカタツムリのようなスピードでゆっくり進んでいると、目まぐるしく変わる空の色、風の音や鳥の鳴き声、遠くに見える木々のざわめきなど、いつもよりもたくさんの情報が見えてきます。まるで、周りの風景が頭の中に直接飛び込んでくるような感覚を覚えたのでした。
この先、通行止め!?
ようやく西コースを4分の1ほど進んだところで、道はトンネルにさしかかりました。
先ほどまでのダートから考えると、新しくてキレイなトンネルです。中ではバイクのエンジン音がボワーンと響き、出口が山型の光となって遠くに見えました。
光は徐々に大きくなり、向こう側の景色の輪郭が浮かび上がってくるのがわかります。
「この先もまだまだ山と道ばかりが続いているんだろうな」…そんな私の予想を裏切り、トンネルから出たすぐ隣には、赤い屋根の洒落たログハウスが建っていました。
『山の家 奥槍戸』という名前のその施設は、軽食をとれる休憩所なのだそう。
「林道にこんな立派な施設があるの…?」
思わずバイクを降りて玄関から覗き込んだところ、中では丁度、黒い帽子をかぶった70歳ぐらいの男性がカレーを食べているところでした。私たちがバイクで来ていることに気が付くと、彼はこう言いました。
「この先、通行止めになっとるんよ。気を付けんさいね」
「…えっ!通行止め!?」
思わず大きな声が出てしまった私たちのため、男性はリュックサックから地図を取り出して説明を始めました…。
【後編へ続く】